NAK開発秘話Product story
2. 金型ニーズの発掘、NAK55の誕生
材料としてそういう性質のものを作ったということからはじまった。それを、浅田所長が面白いじゃないか!と。何に使ったらいいかというのはまだわかってないですよね。技術的には面白いけど、工業的に役に立たないんじゃないかとみんな思ってましたよ。
試行錯誤して色々トライアルした中で、歪みがでない材料ということがわかって、超ミクロンの歪みを嫌うような用途を調べたら、マイクロモーターのシャフトが見つかった。似たような用途で、プラスチックの射出成形機のシャフトとか。その試作をやったり、色々やったんですよ。
あれはすごく精度が必要と聞きますね。当時は加工して、歪みの部分はまた仕上げて加工するという風な世界ですよね。この新しい材料でそれを仕上げなしでできないかと?
射出成形機メーカーの社長さんにお願いしたりしてね。サンプルを送って、開発の人達と一緒に行ったんですよ。みなさん、「熱処理した時には軟らかくって、後で硬くなる」なんて、そんな材料は聞いたことも見たこともないですよね。これはなんだという話になるわけですね。
で、どこまで硬くなった方がいいか、工業的に価値があるのか探ってみようと。HRCで当時30というところに焦点を置いていましたが、やっているうちに、30HRCだと軟らかすぎる、もうちょっと硬い方がいい、40HRC欲しいという話が出てきたんですね。
40HRCでも加工できる材料で
金型ニーズの発掘
40HRCという話が出た時はすでにニーズは「金型」に入ってましたか?
入ってますね、背景でそういう話は出てきてました。
どうして構造用鋼の世界から、突如として「金型」にきたかというのが非常に興味があります。
当時のプラ型というのは、廃船になった船の鉄板を使うこともあったそうです。なんでもいいからって使うんですよ。でも、廃船の鉄板っていうのはリムド鋼で、内部にガスが残ってるから、加工しているうちに孔が空いて困る。当時、そういう経験をしている金型屋さんがいっぱいいたんです。
今も、中から「巣」が出てきた、という風に言いますね。
そういう時代だったんですよ。その点、特殊鋼はキルド鋼で、脱酸してあるから、そういうことは起きないということが言い切れる。それならプラ型に問題ないですね、という話になった。
金型の世界にこの材料を持っていくのに、「最初に軟らかくて、加工して、熱処理して硬くするというのはまどろっこしくて仕方ない。はじめから硬く(プリハードン)してきなさい」と言われました。しかし、40HRCにもなると普通はなかなか加工できない。実はそこにヒントがあって、40HRCでも加工できる材料があれば非常に面白いというのが、当時世の中に出てきたプラスチックの射出成形用の金型なんですね。すがりつくような気持ちもあってやり始めました。
40HRCでも加工できる材料なんて、当時ですと想像つかない話ですよね。
「脆い」が故に「よく切れる」面白さ
(セールスポイントの確立)
で、色々やっていくと、この材料は熱処理するとすごく脆くなるという。「脆い」と言えば、当時、トラックの上から熱処理した材料を落とすと割れちゃう!という笑い話をご存知ですか?
聞いたことあります!
それぐらい、ものすごく脆い材料でした。「こんな脆い材料、何に使えるんだ!」と。でも、たまたまある金型屋さんが加工してみると、40HRCでもよく切れるじゃないかという話が出てきて。
後になってこういう理屈じゃないかと考えたんですけど、析出硬化した材料は、垂直方向の力に対しては強いけど、斜めの力を加えると簡単に壊れちゃうと。その斜めの力っていうのは「剪断力」だと。切削の刃先から受ける力はほとんど剪断力。だから、脆いからといって一概に捨てたもんじゃない、脆いという性質を利用して切削性が良くなるということはあるんじゃないか。これは脆い材料なんだけど、脆いが故によく切れる。硬いのに炭素鋼並みによく削れるなんて面白いじゃないか、と。それが、その後売っていく時のセールスポイントになったんですよね。
NAK55の誕生
(サルファーを入れるという着眼点)
どうしてこの材料にサルファー(S:硫黄)を入れるという発想に至ったのでしょうか?
それは非常にシンプルですよ。要するに非金属介在物を入れてやれば、被削性がよくなる。介在物でも軟らかい介在物がいいというと、サルファイド(硫化物)ですよね。で、やっぱり研磨加工性も重要ですから、5水準ぐらいの実験をやって、現在の量が適量と判断した。お客さんがプラ型に必要な特性として、鏡面仕上げ性とか色々と専門的なことを言われるんですけど、当時、金型というもの自体を知らないから、その後、発見の連続になっていくんですよね。
製品化から定着までの
知られざる
エピソード
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