大同特殊鋼株式会社(社長:石黒 武)は、通信やIoT機器*1の高周波化、自動車の電動化、自動運転の普及に伴い増加する電磁波ノイズ*2の中で、これまで対策が困難であったkHzからMHz帯以下の磁気ノイズに対し、世界最高レベルのノイズ抑制効果を有したパ-マロイ*3箔STARPAS®を開発し、1月から販売を開始しました。
STARPAS®は当社の最高透磁率*4材MEN®PC-2Sを厚み10μm~30μmに箔化した製品で、100kHzの比透磁率*5は4,800以上(厚み100μmのMEN®PC-2Sの2.7倍以上)、1MHzでは1,400以上(同3.9倍以上)と世界最高レベルの磁気ノイズ抑制効果を有しています。
また、STARPAS®はフープ材、シート形状のため様々な形に打ち抜き加工が可能な高い形状自由度と耐久性を兼ね備えていることから電磁波ノイズが発生するデバイスやノイズの影響を回避したい機器に容易に貼り付けることができる優れた加工性を有しており、絶縁材を介した積層シートとしても供給が可能です。
1.背景
近年の情報化社会では、移動通信システムの進化やIoT機器の普及により、デジタル機器が多く使用されます。これに用いるICは動作周波数が高く電磁波ノイズが発生しやすい上に、低消費電力により電源電圧が低く、他からノイズの影響を受けやすいというEMC*6の問題があります。さらに、ワイヤレス充電により、機器に対する電磁波ノイズのEMC環境はより厳しくなっています。
一方、車載機器では自動車の電動化に伴い、モ-タを駆動するインバ-タから発生する電磁波ノイズがラジオの受信状態に影響を与え、また制御用ECU*7の誤動作の原因になることも知られています。さらに、自動運転においては、各種センサにより大量のデータを高速に伝送する必要があり、今後ノイズ対策の重要性は増していきます。
通常、これらの対策にはコアなどの受動部品*8をはじめ、電磁波吸収体やシ-ルド材を用いてノイズを除去する方法がとられています。しかしながら、従来の電磁波吸収体材である焼結フェライトでは数十MHz以下の周波数(主に磁気ノイズ)において効果が不十分であるという課題があり、素材の高透磁率化によるノイズ抑制性能の向上が求められていました。
さらに、モバイル機器の小型化に伴い、ICの高密度な実装が進んでいます。このため電磁波ノイズ抑制の形態も多様化しており、これまで回路全体をシ-ルドする方法から特定のICをシ-ルドするなど、その低背化や薄型化、機器への貼り付けやすさも求められています。従来使用されてきたフェライトは焼結体であるため、形状の自由度や厚みにおいて課題が多く、また比較的低周波で使用されるナノ結晶リボンは、磁気焼鈍後は脆く扱いにくい欠点を有しています。このため、数十MHz以下の周波数帯で高い透磁率を有し、しかも機器への貼り付けが容易で薄型化が可能な磁気ノイズ抑制材料が求められていました。
一般的に材料の交流における透磁率は周波数の増加ならびに材料が厚くなるほど低下しますが、厚みの薄いSTARPAS®は透磁率の低下が小さく、高周波においても高い透磁率を維持することが可能です。
2.製品ラインナップ
製品名 | 材料の厚み | 100kHzの比透磁率 | 1MHzの比透磁率 |
STARPAS®-10PC2S | 10μm | 5,200 | 3,500 |
STARPAS®-20PC2S | 20μm | 5,000 | 2,000 |
STARPAS®-30PC2S | 30μm | 4,800 | 1,400 |
製造可能形状 | フープ材、およびシート |
製造可能寸法 | 板厚 10μm、20μm、30μmの3種類、板幅 100mm以下 |
用語説明
*1 IoT機器
インタ-ネットに接続されたあらゆるモノのこと。センサや通信機能をもつ。
*2 電磁波ノイズ
交流の電流から発生する電磁波でその発生が意図されていないもの。
*3 パーマロイ
軟磁性材(磁石にくっつく材料であり、磁石の磁場を取り除くと磁気がなくなる)の一種であり、その中で透磁率が最も高い鉄ニッケル系の合金。
*4 透磁率
磁性を表す数値で、材料の磁化のしやすさ(磁束の通りやすさ)を示したもの。
磁場の強さと磁束密度の関係を表した比例定数。磁気シ-ルド性能の一つの指標。
*5 比透磁率
真空の透磁率(4πx10-7 H/m)に対する相対比率
*6 EMC
電磁両立性であり電気機器が備える電磁的な耐性や不干渉性のこと。
*7 ECU
電子制御装置のこと。
*8 受動部品
コンデンサや抵抗、コイルなどの部品
以上
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