環境貢献への確実な一歩を―
大同特殊鋼のモーダルシフト WITH YOU Vol.57 平成19年夏号掲載

 
調達部 外注・物流室長 横濱 順    
調達部 外注・物産室長 横濱 順    

  物流分野の重要なキーワード、“モーダルシフト”。それは、エネルギー消費の削減、二酸化炭素排出量低減による地球温暖化防止といった環境面でのメリットとともに、交通渋滞の緩和、労働力不足の解消など、現代社会における様々な問題を解決に導く魔法の言葉である。トラック等による道路輸送から船舶や鉄道を使った地球に優しい効率的な運輸手段に切り替えようというモーダルシフトの流れは、いまや物流業界の常識ともいえる。もちろん、大同でも1964年の船輸送スタート以来、モーダルシフトへの積極的な取り組みが続けられている。あらゆる分野のニーズに応え、年間290万トン以上の製品を日本各地に輸送する大同グループが展開する、独創的なアイデアを盛り込んだモーダルシフトの取り組みを追う。


船輸送から次なる一手へ

  「僕らのひらめきから始まることも多いんですよ。」
  大同の物流を統括する立場にある横は、モーダルシフトへの取り組みについてそう語る。この“ひらめき”という名のアイデアが大同の物流を効率化へと導いてきたともいえる。
  横が物流室に配属された8年前、陸上輸送に代わり船での輸送比率をどれだけ拡大できるかというのが一番の課題であった。しかし、大同の生産拠点が中部地方を中心としている点と、同じ中部地方や関東を中心にユーザーマップが広がっている点を考えれば、必ずしも船輸送の比率を拡大していくことばかりが効率的な方法だとはいえない。しかし、一方でトラックの重量規制が厳しくなり、やはり陸上輸送から他の方法への転換を迫られてもいた。環境面、コスト面で効果の大きい輸送を実現するためには、船での輸送に続く次なる一手が必要不可欠となっていた。
  そこで2003年、大同ではモーダルシフトのあらたな一手として丸棒鋼材の鉄道輸送をスタートさせる。船舶での輸送よりも短距離間を効率的に結ぶという目的には最適な手段であったが、実はこれ以前に大同には鉄道輸送を採用し、ほどなく取りやめたという経緯があった。この時、とくに問題となったのは貨車に積み下ろしする際の製品品質への影響である。せっかく性能・品質を極めて完成した製品をユーザーに届ける輸送の段階で傷つけてしまっては本末転倒だ。特に、あらゆる分野のシビアなニーズに応え、重要な部分を担うことの多い大同製品にとっては、積み下ろしの際にできたほんの些細な傷でさえも、最終製品の品質・性能を大きく左右しかねない。こうした理由から、鉄道輸送はあえなく取りやめとなったのである。
  しかし、横らは得意の“ひらめき”で大同ではタブーとなっていた鉄道輸送を復活させるというアイデアを実行に移した。「なぜ、また貨車で運ぼうとするのか?」という疑問の声も多かったが、横らのひらめきの裏には、鉄道輸送を“使える輸送手段”に変換できるという確信があったのである。
「以前の鉄道輸送の経験で、改善すべき点ははっきりしていました。ですから、そこを改善すれば良いだけだったんですよ。」
  その言葉通り、改善のためのアイデアによって鉄道輸送を可能にし、大同はさらなるモーダルシフトを成し遂げたのである。


改善の鍵となったコンテナ

横らは大同の物流を受け持ってきた知多通運、そしてかねてから鉄道での荷物輸送を提案していた名古屋臨海鉄道とともに共同体制を組み、特殊鋼の鉄道輸送を実現させるべく動き始める。入念な打合せを重ねた上で、改善の鍵として生まれたのが特殊なコンテナであった。
  このコンテナは屋根のない“無蓋(むがい)タイプ”と呼ばれるもので、コンテナごと大型リフトで運べるように工夫されており、これによって、できるだけ製品に触れず、積み下ろしすることができる仕掛けになっていた。つまり、これまで問題とされていた積み下ろしの際の製品破損を徹底的に防ぐものであった。さらに、雨から製品を守るためにきっちりとシートで覆うことができるようになっており、輸送品質の確保に万全の配慮がなされている。
  また、全長6.3メートル、幅2.4メートルと、一見通常の20フィートコンテナと変わらないサイズであるが、わずか75cmという高さにも効率化の秘密がある。鉄道では初のコンテナ四段積みを可能にし、これにより回送時の輸送コスト削減を実現している。
線材コイル輸送のために開発した専用コンテナ
線材コイル輸送のために開発した専用コンテナ
全天候バース
全天候バース
  こうした様々なアイデアを盛り込んで開発された特殊鋼輸送用の専用コンテナを載せ、大同の鉄道輸送は再び走り出したのである。列車の名前は“ CO2削減号”。その名の通り、鉄道コンテナ輸送へのシフトに伴う CO2削減見込み量は、年間約5000トンという数字にのぼり、国土交通省や中部運輸局からも「環境にやさしい物流」の好例として非常に高い評価を受けたのであった。
  巧みな改善により大同の鉄道輸送の活路を切り拓いた横らは、その後もあらたな“ひらめき”を武器にモーダルシフトを進めていく。次に実現したのは、線材コイルの鉄道輸送。2006年のことであった。
ここでも、コンテナは改善の鍵となった。丸棒鋼材輸送用コンテナを開発したノウハウを活かしながら、今度は大同グループの一員である丸太運輸とともに 線材コイルを運ぶためのコンテナを開発する。積載量は10トン。工場でのクレーン作業でコイルを上から積み込めるよう天板をなくし、コイルを固定するための支柱をコンテナ内に取り付けた。前回同様、風雨対策用のシートも設置し、やはり線材コイルの品質確保を実現するコンテナが完成したのである。
  こうした物流における独創的なアイデアは、先に実施されていた船輸送にも見ることができる。天候の影響を受けることなく荷物の積み下ろしができるよう、港に着いた船ごと屋根で覆う専用の船着場 “全天候バース”の活用もその一つである。
  横らのひらめきは、グループ会社や協力会社との見事な連携によって独創的なアイデアとして実を結んだ。そしてそのアイデアが、大同のモーダルシフトを製品品質の確保とコスト面のメリットとのバランスを保ちながら、環境負荷低減への大きな効果を生み出す画期的なものにしているのである。

 
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