大同特殊鋼株式会社(社長:清水 哲也)は、このたび生体用低弾性率チタン合金*1Ti-15Mo(ASTMF2066)の量産製造を国内メーカーとして初めて実現し、2023年10月より海外主要顧客へ本格的に量産販売を開始しました。
Ti-15Moは、チタンとモリブデンという人体に優しい元素からなり、金属材料のなかでは骨に近いしなやかさ(弾性率が従来の合金より骨に近い)をもつことから、高い治癒力*2が期待される生体用チタン合金です。当社はこれまでも
医療用チタンは、世界的な人口の増加と、高度医療におけるニーズの高まりにより、中長期的な需要の拡大が見込まれます。当社は、成長分野である医療用チタン製品の高受注環境に対応していくための戦略投資として、2024年1月に高精度AMSスペック*3対応の超音波探傷装置1基を星崎工場(名古屋市南区)に増設し合計2基とするとともに、2025年3月までにチタン用真空アーク再溶解炉(
こうした製造能力増強とともに、海外における拡販活動等を推進することで、当社はチタン受注量を2030年には2018年対比およそ2倍にし、医療用チタン製品の世界シェアを現状の10%程度から2030年に20%とすることを目指していきます。
1. 背景
当社は長年にわたり、医療用途をはじめ自動車や眼鏡フレーム材など各種ニーズに応じたチタンおよびチタン合金を提供しており、その棒鋼および線材製品においては国内のトップメーカーです。
Ti-15MoはASTM International(米国材料試験協会)にASTMF2066として2000年に登録されて以来、20年以上の歴史をもつ生体用低弾性率チタン合金ですが、融点が高く溶解時に溶け残りやすいモリブデンを他のチタン合金より多く含むため製造が難しく、日本国内に製造できるメーカーは存在していませんでした。
そこで当社は、モリブデンの溶け残りを改善するために先進的溶解技術であるLIF炉(
2. Ti-15Moの特徴
- 構成元素
毒性の指摘が少ないチタンとモリブデンからなるチタン合金であり、ニッケルやバナジウムを含有していない。 - ASTM 規格登録合金
ASTM International(米国材料試験協会)に登録された規格合金であり、医療用途としても市場での実績があるため、用途展開が容易。 - しなやかさ
従来人工骨に使用されていたα+β型合金*5であるASTMF136(Ti-6Al-4V ELI)やASTMF1295(Ti6Al-7Nb)に比べ弾性率(ヤング率)が骨に近いため(図1)、骨に近いしなやかさを有し、骨組織の応力遮蔽や骨萎縮を生じにくい。 - 強靭性
溶体化熱処理状態*6において軟質で良好な成形性を有し、かつ時効熱処理*6を加えることでASTMF136 等より高強度化が可能なため、必要に応じて強度を調整できる(図1)。
3.用途
人工骨をはじめとする各種医療機器部品 等
用語説明
*1 生体用低弾性率チタン合金 | 従来のチタン合金より骨に近いしなやかさを有する医療用途向けのチタン合金。弾性率はしなやかさの指標であり、負荷に対してどの程度変形するかを表すパラメータ。 |
*2 高い治癒力 | 骨に比べて弾性率の高い金属材料では、インプラントとして体内に埋め込まれた際に、力の大半をインプラントが受け持ち、骨がその機能を発揮しなくなる(応力遮蔽と呼ばれる)が、しなやかさが骨に近い |
*3 AMSスペック( |
米国の非営利団体である |
*4 LIF炉(浮遊誘導溶解炉: |
電磁力によって炉壁と非接触で溶解ができ、また溶湯中の攪拌も強い溶解法のためモリブデンの溶け残りのない溶解が可能 |
*5 α+β型チタン合金 | チタンは常温でα相と呼ばれる六方晶(六角柱)、高温でβ相と呼ばれる体心立方晶(サイコロ状)の結晶構造を有している。チタン合金では、合金元素を添加することで常温でもα相とβ相が混在する2相が生じるようになり、このような合金をα+β型チタン合金と称する。α+β型チタン合金の特徴は適度な強度と耐熱性。 |
*6 溶体化熱処理、時効熱処理 | 熱処理方法の種類であり、溶体化熱処理とはβ変態点(これ以上の温度ではα相がβ相に溶け込みβ単相となる温度)の近傍で加熱保持し、マトリクスであるβ相中にα相を溶け込ませる処理のこと。 時効熱処理はそれよりも低い温度( |
以 上