大同特殊鋼株式会社(社長:嶋尾正)は、東北特殊鋼株式会社(社長:山口桂一郎)と共同でチタン系硬質皮膜で世界最高水準の硬さ(4500HV)*1と優れた密着性を両立した硬質皮膜用チタンモリブデン系ターゲット材「STAR-TM3(スター・ティー・エム・キューブ)」*2を開発、4月に販売を開始します。
金型や切削工具には寿命延長、能率向上を目的にチタン系、クロム系、チタンアルミ系、クロムアルミ系、あるいはDLC*3などの硬質皮膜がコーティングされており、当社は硬質皮膜コーティングに使用されるターゲット材を製造・販売しています。このたび、当社が長年培ってきたチタン製造技術を活用し、工具や金型の母材との密着性が高く潤滑性に優れたモリブデンを添加した「STAR-TM3」を開発しました。
硬質皮膜がモリブデンの単一金属層を含む窒化チタンとの混合組織の場合には、硬度の低いモリブデンが全体の硬度を下げてしまう問題がありましたが、当社独自の先進的溶解技術*4を活用してチタンと高い融点(2600℃以上)のモリブデンとの均一な金属組織を有する固溶体*5型の合金ターゲット材製造プロセスを確立しました。そして、この製法で製造したターゲット材を使用することで、極めて硬度の高いチタンモリブデン合金コーティング皮膜を実現しました。
金型や工具にコーティングされた皮膜は、母材との物理特性の違いにより皮膜と母材の界面に過大な応力が発生し、剥離に至ります。一般に高硬度皮膜は物理特性が母材と大きく異なることから剥離しやすい問題があり、その解決策としてタングステンカーバイドやクロムなどのターゲット材を使用した下地層による密着性の改善が図られています。一方、「STAR-TM3」を使用した皮膜は母材との密着性が非常に優れており、下地用ターゲット材を用いた成膜の必要がないため、お客様の製造プロセスにおけるコスト削減にも貢献します。
これらの特性から、東北特殊鋼(株)で実施した鍛造金型での寿命試験(図1)において、「STAR-TM3」皮膜を施した鍛造金型は従来の窒化チタン皮膜や窒化チタンアルミ皮膜を施した金型に比べ約3倍の寿命となる結果が得られています。
1. 「STAR-TM³」の特長
(1)チタン系硬質皮膜で世界最高水準の硬さ(4500HV)を実現
当社が長年培ってきたチタン合金製造プロセスにより、均一な金属組織を有する固溶体型の合金ターゲット材の開発および、チタンモリブデン合金コーティング皮膜の開発に成功しました。硬度が同等のDLCに比べて高い耐熱温度が期待できることから、工具や金型の他、自動車・産業機械部品などの幅広い分野への適用が見込まれます。
(2)高硬度と高密着性を1つのターゲット材で実現する「オールインワンターゲット材」
工具や金型などの母材との密着性が高く、潤滑性に優れた金属であるモリブデンを採用。母材との優れた密着性により下地用ターゲット材が不要です。
(3)ローズゴールドなどの優れた意匠性
成膜条件により、チタン系硬質皮膜の標準的なゴールド、ブロンズなどの他、ローズゴールド系の発色が可能で、意匠性にも優れています。
2. 製造可能形状・寸法
丸型 直径 300mm以下、厚さ 4mm以上
角材 幅 150mm以下、長さ 1,500mm以下、厚さ 4mm以上
3. 売上目標
2019年度 10億円
4. 特許
出願済
5. その他
- 本製品を「高機能金属展(4月6〜8日、東京ビッグサイト)」、「インターモールド(4月20〜23日、インテックス大阪)」、「MEDTEC Japan(4月20〜22日、東京ビッグサイト)、「機械要素技術展(6月22〜24日、東京ビッグサイト)」に出展します。
- 成膜に関する特許実施料はSTAR-TM3のターゲット材価格に含まれます。
- 東北特殊鋼(株)はSTAR-TM3を使用した皮膜をTM3シリーズとして販売します。
*1 当社調べ | |
*2 STAR-TM³ | STARは大同特殊鋼のロゴマークに使われている星マーク、Tは東北特殊鋼とTi(チタン)、MはMo(モリブデン)、キューブは結晶構造、立方晶=cubicに由来 |
*3 DLC (Diamond Like Carbon) | ダイヤモンドに近い特性を持つ非結晶皮膜であり、高硬度、耐摩耗性などに優れる |
*4 先進的溶解技術 | LIF炉 (LIF:Levitation Induction Furnace 浮遊誘導溶解) |
*5 固溶体 | 2種類以上の元素(本製品の場合は、チタンとモリブデン)が原子レベルで均一に混ざり合っている状態 |
以 上